4月26日 守門岳見晴台下部より、大雲沢下段
朝、8時になるかならないかのうちに、Hさんが「オイ、いごうぜ!」と声をかけた。
急いで身支度を整えて、出発する。
今日は、重いロープは持参しないで行こうということで、私の荷物は軽かった。
今日は朝から天気が良く、皆それぞれに期待していた。
見晴台の近くまでは、約1時間ちょっと掛かった。
その場所で、皆がそれぞれ、自前の金カンジキをつけ始める。
「オイ、落ちねえでくれやのう、それきりだから!」加えタバコで、ニコニコしながら言う、M氏。
一服し、Mさんが先頭で、剣スコップで道を切り始める。
目的の滝までの距離は、直線距離にすれば、数100メートルだが、以外に小沢があったりして、順調に進まない。
1時間ほどで、ようやく核心部が見えてきた。
前方に鞍があり、その向こうが滝になっている。
その滝は、守門岳の中でも1番場所の悪い所に存在しているのだ。
雪が無くなると、ブッシュだらけとなるので、命を落とす危険性は若干薄れるが、今の時期は雪も硬くもっとも険悪な時期でもある。
そのほか、落ちそうになっているブロックも有ったが、「下が繋がっているから大丈夫だ!」と断言する。
聞く所によると、大白川地区で、シシ山で命を失った人は過去に1名であったという。
何10年も続いている中で、この数字は驚きである。
勿論、1名であっても、悲しいことではあるが、かなり安全を第1に行っていると言うことだろう。
登山道から2時間かけてようやく、滝壷のある場所に到着した。
滝の高さは約50メートルくらい有りそうだ。ここから叩き落ちれば、おそらくこの滝壷の中には居なく、既に大雲沢に流れ込んだろうと私は期待していなかった。
しかし、ベテランの方々は探す・・といっている。
Hさんが自分が滝壷の中に入ると言い、カッパを着込む。
細いロープであったので、2重にし、Hさんの安全ベルトにかける。
私もHさんと、一緒に途中まで滝壷に入り込み、ロープを確保する。
滝壷の中は、1部ナメ滝のようになっており、十分なスペースがあるようだ。
Hさんのロープの動きが停止するたびに、不安になってくる。
上部は、約2メートルほどの雪渓となっている為、今すぐの崩壊は考えられないが、滝上からの巨大なブロック塊でも落下しようものなら、ひとたまりもない。
長い沈黙の時間が経過し、ようやくHさんが下界に姿を現した。
一応、くまなく探したが、シシの姿はないようだ、とのことであった。
雪の塊が、かなり溜まっており、それが溶けて一気に押し出されて、真下の万年雪の下の大雲沢まで流れたのだろうと結論付けた。
シシが発見されないのは残念だったが、Hさんが無事であったことが何よりであった。
Mさんは、最長老に連絡し、発見できなかったので、引き返すと連絡する。
帰りの登山道までは、既に足型を作ってあるので、ブロック崩壊にのみ注意しながら全員無事に登山道まで到着した。 とにかく、シシは回収できずに終わってしまったが、全員無事で帰ってきたことをHさんはじめM氏も喜んだ。