2002年5月7日 足沢山〜太郎助山〜百字ヶ岳〜毛猛山〜前毛猛山〜六十里越

 豊栄山岳会所属の、風太さんが、前日うちに宿泊した。
以前より、5月7日に毛猛山に行こうと約束していたのだ。
本日風太さんは、セカンドカーでやってきた。本日の泊りは風太さんだけなので、夕食の前に風呂に入っていただく。
夕食の準備が出来たので、風太さんと一杯やるべく、私はビールを飲み始めた。
相変わらずの酒通の風太さんは、これは美味いんです!と、酒をごろごろ持ってくる。
明日の参考資料の、新潟県屈指の藪山スペシャリスト著の本や、色々持参して頂いた。
計画は4時起床後、5時登山開始であったので、あまり盛り上がり過ぎない程度で切り上げ、9時にそれぞれ寝る段取りをした。
翌朝、私は全く登山の準備をしていなかったので、4時頃から準備を始める。
風太さんも4時を過ぎた頃、起き始めたようであった。
4時半を過ぎた頃、私の車で出発する。
 今日のコースは、足沢から登り、毛猛山を経由し、六十里に下る予定だったので、前日風太さんの車を六十里まで回してあった。
朝一発の足沢からの登りは、相変わらずきついと感じる。
所々、アズマシャクナゲやムラサキヤシオツツジ、ユキグニミツバツツジなどが乱舞しており、花々を楽しみながら登る。
タムシバの花はそろそろ終わりそうな感じである。
足沢の尾根の取っ付きに到着し、少し休憩する。
かなリ、あたりは青藪となっていて、シシ山の時と随分変化している。
足沢山に到着し、何か食っていこうということになり、朝食にする。
昨日の風太さんからの差し入れの焼酎が利いているのか、滅法喉が渇く。
この時点で、600ccほど飲んでしまった。
昼飯はラーメンのみと決めていたので、水の心配が生じてきた。
風太さんからのバナナを頂いたり、ブドウ糖を頂いたりして随分助かった。
内檜の分岐点を過ぎると、完全な藪道となる・・・しかし、かなりの踏み跡があるようだ。
風太さんの話によると、山の本に「マイナー百名山」というシリーズが有って、そこに川内山塊の矢筈岳とか、この毛猛山も入っているということである。
そのせいもあって、連休にかなリ登ったのではないかと、2人で話をする。
 太郎助山までは、程よく踏み跡も有り、4時間35分で到着した。
雪が十分有れば、足沢山山頂部をショートカットして、内檜分岐まで行けるのだが、その分時間を消化したようだ。
太郎助山から、百字ヶ岳までは、そこそこ雪も着いており、難所は見られない。
若干の藪こぎもしたが、、太郎助山から百字ヶ岳までは40分で歩く事が出来た。
昨年、地元の友人と檜岳まで行ったのは、5月18日であったが、その時はもっと雪が有り、太郎助山から百字ヶ岳までは僅か27分で行ったと記憶している。今年は、いかに条件が悪いと言うことがわかる。
 百字ヶ岳から、毛猛山までの間は、私にとっても初めての経験である。
以前、山に詳しい人に尋ねると、およそ1時間30分くらいで到着する、という言葉を思い出したが、とても1時間30分では無理なような感じがしてきた。
かなりの藪もあるし、中岳付近と毛猛山直下の藪の大群に、多少不安が生じる。
しかし、按ずる事もなく中岳を順調に通り過ぎた。
毛猛山直下の藪の手前の雪渓で少し休憩する。
よく見ると、藪の中間くらいまで、雪渓が付いており、何とかそこを利用できそうである。
雪もさほど硬くなく、歩きやすい。
藪に入ると、アズマシャクナゲが沢山有り、一瞬檜岳のパターンか!?と心配したが、多少の踏み跡も有り、テープも捲かれていたのでさほど難儀はしなかった。
山頂らしい感じがしてきたので、山頂か?と思いきや、更に尾根を少し歩いたところが山頂であった。
百字ヶ岳から毛猛山まで、1時間30分で到着できたのは、嬉しい誤算であった。
足沢口を出発し、6時間40分の道のりであった。
左手を見ると、前毛猛山の稜線が、ことごとく藪で包まれており、冗談で、「未丈が岳へ下った方が良いかも知れない」と風太さんに言う。「じゃあ、今度行きましょう!」と、この時点で計画されてしまった。
 11時40分であったので、軽く昼食を摂ることにした。
私の昼食メニューは、ラーメンと決めていたが、肝心の水の心配もあったので、ぐずぐずしていると風太さんがパンを分けてくれた。バタークリームと餡子が混じったクリームが入っていて、この世のものとは思えぬ美味さであった。
最悪、ラーメンをぽりぽりかじるつもりであったので、大変助かった。
お決まりの写真を撮ろうと、無理やり風太さんに、デジカメ撮影を逆要求する。
500ccの缶ビールで乾杯し、風太さんのキムチを肴にして30分ほど寛ぐ。
「これからが、核心部ですかねえ」と私が呟くと、風太さんも「そうかも知れないすねえ」という。
早々に切り上げ、出発することにする。
途中で、木を2本切り、ピッケル代わりに使いながら雪の斜面を滑る降りる。
一昨年、毛猛沢を詰めて毛猛山に居たり、荷物をデポした懐かしい場所に到達。
あの時は、ここから行ったんだなあ・・と感慨にふける。
話は逆転するが、毛猛山山頂を出発したのは、12時10分であった。
痩せ尾根に差し掛かる頃、雨脚が強くなってきた。しかし、この時点ではどこもかしこもガスは出ていなかった。
途中の痩せ尾根に登って行くと、どうも痩せすぎだなあ・・・と首をかしげる。上のほうは30センチくらいしかない。
一昨年も通ったことが有るが、こんな所は記憶にない。
すると、風太さんが、「下を捲いてますよ」と教えてくれる。
尾根筋の風が通る所は、綺麗な踏み跡となっているが、尾根が少し太い部分は立派な藪で、踏み跡らしきあとは殆んど不明だ。
痩せ尾根の終了地点に小高い尾根が有り、そこで一息入れることにする。
風太さんの高度計では、およそ1,200mくらいであると言う。位置的には、毛猛山と前毛猛山の中間地点くらいだが、ここからが藪が多く大変そうだ。
所々雪が残っているので、極力雪を利用してタイムを稼ぐ。
ブナ帯となり、立派なブナの原生林で、新緑の雨の中美しく輝いていた。
この辺のブナの原生林は、前毛猛山と毛猛山との最低鞍部らしい。風太さんは、1000メートルを切っていると言う。
鞍部を抜けると、しばらくは、遊歩道のような気持の良い山道が出現する。
林床に光が届かない原生林なので、古い踏み跡が鮮明に残っているのだ。
ヤマモミジらしき木が有るが、直径50センチ近い大物も有った。
それに混じり、オオバボダイジュが所々さわやかなアクセントを加え、佇んでいる。
やがて、斜面は急になり、大木群は消えていく。
替わって、アズキナシやリョウブ、マルバマンサクなどの陽性の樹種が大量に現れ、踏み跡らしきものは皆無となる。
両手を使い、木をこじ開けながら、登って行く。
風太さんと2人で、とにかく登る、登る・・・2人とも無言で登っていく。
やがて、雪渓が現れ、少しでもと思い、雪渓を歩く。
強烈な藪こぎの途中の雪渓は、別世界に入ったような開放感を味わうことができる。
 この頃には、雨もひどくなり、視界は30m程になってしまっていた。
山頂に近くなってきたのか、うっすらと踏み跡らしきものが見えてくる。
マルバマンサクやリョウブはすでに見られなくなったが、代わってアカミノイヌツゲの群落が覆い被さっている。
毛猛山から2時間10分、ようやく3時20分に前毛猛山に到着した。
風太さんは、ガスの為一応方向チェックをする。
前毛猛山から下り始めると、踏み跡は鮮明で、整備されていない登山道もどきとなっている。
先頭を切り、風太さんが速いペースで下ってゆく。
尾根筋を下ってゆくのだが、途中でパタッと踏み跡が途切れた。
どうも雪渓の方へ下っているような形跡が有る。
雪渓の方へ歩くと、ふたたび踏み跡に乗る。
喜んで、下へ下へと下ってゆくと、厭に急登で足方さえもない道となった。
何か、無理やり間に合わせで、木だけ切ったという感じの山道である。
勿論、これだけでも大変な作業であることは、敬意を払うところである。
その山道を下って行くと、ぱたりと踏み跡が途絶える。下を見れば、大鳥沢の源流らしい雪渓がうっすらと見える。
風太さんが位置を確認した所、やはり大鳥沢であることに間違いなさそうであった。
昨日、下から見た時に、滝がぽっかりと口を開けていたので、時間も早いので計画通り、少し戻り尾根筋の道を見つけることにした。
風太さんの推測通り、大鳥沢に下る手前に、古い踏み跡が有った。
そこをしばらく下るが、踏み跡は徐々に失われ、殆んど不明となる。
田子倉湖の切れ落ちている尾根を、ひたすら下ってゆく。
所々、木は潅木となり、そこにコシアブラ木が混じり、おびただしい新芽が付いていた。
ほかにヤマグルマやアズマシャクナゲが入り混じり、亜高山帯を彷彿させるような植生も見られた。
潅木と、雑木との繰り返しの藪で、いささか疲れは増している。
しかし、歩を進めてゆくと田子倉湖側の斜面に雪渓が現れ始めた。
私の中では、六十里はかなリ近いと感じる。
途中の藪で、風太さんがクマの糞を発見し、自分に知らせる。
糞から判断すると、およそ100K近い大物であると推測された。
ただ、糞そのものはそれほど新しいものではないが、雨に濡れて内容物が溶け始めていると言うことも考えられた。
風太さんが、いきなり声を発する。
タムシバの木の花が一斉に落下し、クマらしきものが逃げていったというのだ。
木の樹皮を見ると、いくらか爪あとらしきものがある。
タムシバの花は、香りも良く、「噛む芝」という語源も有るように、ツキノワグマ達の大好物でも有るのだ。
通常は考えられないのだが、ガスでツキノワグマも警戒心が薄れていたのだろうと言う。
2人で声を出し、威嚇する。
藪は強烈だが、赤テープがしっかり結ばれている。
雪の斜面を下り始めると、一瞬だが風に煽られ、ガスが切れた。
前方に、鉄塔が見えてきた。
もう直ぐ、浅草岳の鬼が面山コースの登山道にぶつかることを確信した。
登山道に取り付き、山道のありがたさを互いに口にしたのであった。

今回の山行きは、かなリ軽いのりであった。天候も悪く、私1人では到底無理なコースであったが、風太さんが居たから故に出来た登山であった。

コースタイム
足沢口5:00  足沢山取っ付き尾根6:10 足沢山7:15 太郎助山9:35 百字ヶ岳10:15 中岳10:50
毛猛山11:40 毛猛山12:10 毛猛〜前毛猛間中間ピーク13:30 前毛猛山15:20 六十里越駐車場17:45

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